東京高等裁判所 昭和37年(う)294号 判決
被告人 木原正信 外三名
〔抄 録〕
検察官の控訴趣意の所論は、原判決が被告人等の原判示第一の違反文書頒布につき罰金刑を選択して処断し、かつ被告人大原・同小林・同柳に対し公職選挙法第二五二条第一項の適用を排除したことは、量刑軽きに失するもので不当である、と主張する。
よつて記録を調査して按ずるに、本件違反文書頒布は、候補者木原正雄の選挙運動組織の最高幹部に内定していた被告人木原・同大原・同小林と民主社会党本部からオルグとして派遣されていた被告人柳とが、同候補者の選挙運動者木原弘・同田中喜栄治と相謀り、選挙告示の直前に犯したもので、その態様も候補者に対する支持投票を端的露骨に要望した違反文書を新潟県第四区の農家一万数千戸に郵送頒布したという、決して軽微とは言い難い文書違反で、被告人等の責任は軽視できるものでないことは、検察官所論のとおりである。しかしながら本件の場合被告人等は候補者が新人であるところから違反文書にならない程度の推せん状を民主社会党の機関紙と共に頒布して宣伝することを企画し、被告人柳においてその案文を作成したところ、前記田中喜栄治が被告人等の知らないうちに右案文を修正して候補者に対する支持投票を端的露骨に要望する文書に改め、これが印刷されて来て、初めて被告人等はそれが違反文書になつていることに気附いたのであるが、このときは既に選挙関係文書頒布の禁止期間に入る直前で、これを改める余裕がなく、しかも運動応援等多数の手によりその発送準備も過半終つていて、今更これを中止するを得ない情勢に立ち至つていたところから已むなくこれを頒布したもので、必ずしも悪意ある計画的犯行とは認め難く、かかる事情と形式犯たる文書違反は実質犯たる買収犯等に比し一般に罪質が軽いとされていることを考え合せるときは、原判決が本件文書違反に対し罰金を選択して処断したことは必ずしも軽きに過ぎる量刑とはなし難く、また原判決が被告人大原・同小林・同柳に対し公職選挙法第二五二条第一項の規定の適用を排除したことも、性質上聊か当を失する嫌いがないではないにしても、事犯の実態に照らせば、この点も当審において敢えて改めなければならない程に不当なものともなし難い。されば検察官の論旨は結局理由ないに皈し、採用するを得ない。
(兼平 齊藤 関谷)